まだ30代の頃だったか、私にはモデルさんたちのメイクをしている
プロのメイクアップアーティストの友人がいた。
私は彼女の好意で、一度、プロのメイクをしてもらったことがある。
さすがに彼女は沢山のメイク道具を持っていたし、
持っている化粧品の数も半端でなかった。
で、私はまな板の上の鯉の状態で彼女にメイクしてもらった。
目をつぶってメイクしてもらっていると、顔の上に
各種メイクブラシが動いているのがわかった。
20分くらいたって、メイクがおわり
「どう?」
と手鏡を渡された。
鏡で自分の顔を確認した私は、一瞬言葉を失った。
プロに化粧してもらったら自分の顔が変わっていた。
良く変わっていたのでは無い。
何となく、水商売の方のような顔になっていたのだ。
一瞬言葉を失った私だったが、やっとのことで言葉を絞り出した。
「すごいっ! 自分の顔がこんなに変わったのは初めて」
と、感想を言ったら、彼女は満足そうな顔になった。
家に帰って、もう一度鏡で、メイクされた自分の顔をじっくり見た。
何度見ても、夜の世界の方の顔だ。
「これは私には似合わない」
私は、すぐに顔を洗って、普段のメイクをし直した。
今思うと、プロのメイクの方は、写真に生える顔に作っていたのかもしれない。
モデルにするメイクアップは、写真撮影のためだろうから。
それから私は、
「上手なメイクをすると、少しは美人に見えるかもしれない」
という幻想を捨てた。
今でも自己流のメイクをしている。